「鍼で痛みが改善する」というのは有名な話です。【鍼麻酔】といって、手術時に一般的な麻酔薬を使わず、鍼の鎮痛作用のみで手術を行うことにも成功しています。
では、なぜ鍼をすることによって身体の痛みや手術時の痛みを抑えることができるのでしょうか。
鍼で経穴(ツボ)を刺激すると、その刺激は中枢神経を介して脳に伝えられます。
その際、下行疼痛抑制系の神経物質である【内因性モルヒネ様物質(=生体内に存在するモルヒネに似た物質)】が体内より放出されます。
それが、脊髄後核という脳へ痛みを伝える伝導路に働きかけることで痛みを抑制します。
ちなみにこのメカニズムは動物実験によって立証されています。
ほかにも、アメリカの生理学者が提唱した触覚刺激による痛覚抑制機構『ゲートコントロール説』や、自律神経反射に基づく血流改善による疼痛の抑制などを鍼灸での刺激によって引き出すことができます。
次に自律神経系の作用機序についてです。自律神経には交感神経と副交感神経があります。
鍼によって末梢から中枢に伝わった刺激は、これらとホルモン系を介して内臓の機能を調整し、生体の恒常性(ホメオスタシス)維持に重要な役割を果たしています。
生体の機能が何らかの理由で乱れ、自律神経が失調してくると筋肉の緊張や硬結、血液やその他の循環不全(頭痛・めまい・吐気・倦怠感・手指のしびれ・冷えなど)痛みの症状が現れます。
疲れやすい、疲れがとれない、体が身体がだるいなどの何となく実態の見えにくい主訴は大部分が自律神経失調によるものと思われます。
この中でも自律神経系に及ぼす作用で代表的な血流改善反応を説明します。
筋肉の持続的な収縮・緊張は主に筋が損傷した時、疲労した時に見られます。
この時、交感神経は緊張しており、筋肉内は血液の循環不全(いわゆる血行の悪い状態)になっています。
経穴の刺激は中枢神経を介して交感神経の緊張を緩和し筋肉内の血流を改善させます。
また、筋肉の収縮・緊張部に直接刺激をすることで、部位血管を拡張させる知覚神経の反射を利用した方法も報告されています。
血流の増加は筋肉内の疲労物質や発痛物質を洗い流すことでこの原因を除去し、筋緊張を緩めたり、痛みを軽減させたりしています。